名古屋地方裁判所 昭和46年(ワ)1491号 判決 1973年9月26日
原告
水野美代子
外七名
右八名訴訟代理人
山本法明
右同
山本紀明
被告
坪谷栄資
右訴訟代理人
大池龍夫
右同
大池崇彦
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
1 被告は、原告らに対し、別紙物件目録(二)記載(略)の建物を収去して、同(一)記載(略)の土地を明渡せ。
2 被告は、昭和四五年七月二九日から右建物収去土地明渡ずみまで、原告水野美代子に対しては一ケ月につき金二三、五〇〇円の二一分の七、その余の原告等に対しては各一ケ月につき金二三、五〇〇円の二一分の二の各割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言
二、請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二、当事者の主張
一、請求原因
1 水野十辰は、もと別紙物件目録(一)記載の土地(以下本件土地という)を所有していた。
2 右水野十辰は、昭和二六年二月ころ、被告に対して、本件土地を、期間の定めなく、かつ使用および収益の目的を定めないで、無償で貸し渡した。
3 被告は、昭和二六年五月一五日ころ、本件土地上に、右物件目録(二)記載の建物(以下本件建物という)を新築所有し、右土地を占有している。
4 水野十辰は、昭和三五年二月四日死亡し、原告らは、十辰の財産に属した一切の権利義務を承認した(原告美代子の相続分は二一分の七、その余の原告等の相続分は各二一分の二である)。
5 原告らは、昭和四五年七月二九日昭和簡易裁判所に被告に対する本件建物収去、土地明渡の調停を申立てることにより、被告に対して、本件建物を収去して本件土地を返還するように請求したので、同日、本件土地の使用貸借は終了した。
6 本件土地の賃料相当額は、一カ月金二三、五〇〇円である。
7 よつて、原告らは、被告に対し民法第五九七条三項による本件土地の使用貸借の終了に基き、本件建物収去土地明渡と請求の趣旨記載のとおりの本件土地の賃料相当額の損害金の支払とを求める。
二、請求原因に対する認否
1 請求原因第1項の事実は認める。
2 同第2項の事実は否認する。すなわち、被告は昭和二五年一二月二五日頃、原告ら先代十辰から、本件土地を代金三万円で買受けたものであつて、その後に、原告ら主張のような使用貸借がなされたことはありえない。
3 同第3項の事実は認める。
4 同第4項の事実は認める。
5 同第5項の事実は認める。
第三、証拠<略>
理由
一請求原因第1項の事実は当事者間に争がない。
二同第2項の事実については、これを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、<証拠>を総合すると後記五の事実を認定することができる。
三なお、原隆子の証拠調については、同女は原告幸江法定代理人として尋問されるべきものであるところ、本件弁論更新前の手続において、誤つて、被告側から証人として尋問の申請がなされ、かつ、証人として尋問されていることが記録上明らかであるけれども、この点は証拠調の方式の違背に関するものであるから、当事者の責問権の喪失があれば、同女の証言を右の原告の法定代理人の尋問の結果に転換して採用することを妨げないと解するのが相当であるところ、本件において、右の点の違背は原告側において知り又はこれを知りうべかりし場合であり、かつ、これにつき原告側から遅滞のない異議の申立がなされなかつたことも記録上明らかであるから、同女が証人として供述したものを原告幸江法定代理人の尋問の結果として転換して採用し、本判決の基礎として斟酌することにする。
四また、なお、原告申請にかかる証人余語梅吉の証拠調については当事者双方の訴訟代理人が出頭したうえ、当裁判所により昭和四八年五月二八日に裁判所外においてこれがとり行われ、その後の同年七月四日の第一一回本件口頭弁論期日において当裁判所は本件が判決をなすに熟すると認めて本件弁論を終結したのであるが、当事者双方は同期日においていずれも出頭せず、従つて、本件においては右の証拠調の結果につき当事者によるこれの援用(又は演述)がなされていないのであるけれども、かかる場合でも当裁判所は右の証拠調の結果を判決の基礎として斟酌すべきであると考える。すなわち、当裁判所が右証人の証拠調調書を当事者に提示すべく準備して右の口頭弁論期日をひらいた以上(このことは本件訴訟上明らかである)、右の証拠調の結果につき公開の法廷で当事者に意見陳述の機会を与えたことになるのは勿論であり、その場合には特にそれ以上に当事者によるこれの援用(又は演述)がなくても、これを判決の基礎となすべきであると解するのが相当である。
蓋し、本件のように当事者によつて申請された証拠調については、その証拠の申出の中にすでにその証拠調の結果を自己に有利に斟酌することを求める趣旨が含まれているとみるべきであるから、あえて当事者に右の趣旨の援用を重ねてさせることは本来無意味であるし、また、本件のように受訴裁判所によつてなされた証人調の結果はすでに証拠資料としてその裁判所の裁判官の認識内容となつてしまつているのであるから、あえてすでに実施ずみの証人調の結果をあらためて当該証人以外の当事者(又はその訴訟代理人)をして陳述(つまり演述)させる必要もないとみるべきであり、次に、公開主義との関係においても、訴訟記録の一般公開の原則(民訴第一五一条第一項)によつて、すでに、裁判所外で、従つて、非公開でなされた証拠調の内容についても一般公開の途が開かれているのであり、特に、訴訟の迅速処理の要請との調和を考えるとき、本件のように証拠調の結果につきその後の公開の法廷で当事者に意見陳述の機会を与えることが保障される以上前記のように解しても民事訴訟が予定している公開主義に反しないと考えるからである。
従つて、右の証人余語梅吉の証言も本判決の基礎として斟酌することにする。
五すなわち、被告は昭和二五年頃、ヒロミ不動産こと児玉都次郎に対して自己の住居用建物の敷地とすべき土地の買受の仲介を依頼し、同人の仲介により、同年一二月二五日頃売主水野十辰と買主被告との間に本件土地を金三万円で売買する契約が成立し、その頃被告は都次郎を介し十辰に対し右代金三万円を完済し、かつ、都次郎に対し仲介の報酬三、〇〇〇円を支払つたこと、またその頃十辰は都次郎を介し被告に対し、本件土地の権利証、右売買を原因とする登記に必要な委任状、本件地に関する換地仮交付権利証券等を交付したこと、しかし、本件土地の地目が畑になつていた関係もあつて、十辰から被告に対するこれの所有権移転登記がのびのびになつてしまつたこと、そしてついに十辰が死亡し、その後、十辰の相続人から本件訴訟が提起されるに至つたこと、かように認められ、右認定に反する証人熊沢政明、同鈴木登志子、同宮原清彦の各証言は、証人余語梅吉、証人坪谷美代子の各証言、原告幸江法定代理人原隆子の尋問の結果に照らしてとうてい信用できず(右認定に反する証人熊沢政明、同鈴木登志子の各証言にいたつては、右のように他の証拠と照らし合わせるとき、多分に作為的なものが感じられる)、甲第三ないし第五号証(各郵便官署作成部分の成立につき当事者間に争がなくその余の各作成部分についても弁論の全趣旨により、その成立だけは認めうる)も証人余語梅吉、証人坪谷美代子の各証言に照らすとき、とうてい右認定を左右するに足りず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
六右認定のように、昭和二五年一二月二五日頃すでに本件土地につき十辰、被告間の売買契約が成立している以上、その直後に、被告が重ねて十辰から本件土地を借り受けることは通常ありえず、結局、請求原因第2項の事実はこれを認めることができないので、その余の判断をするまでもなく、本件土地の使用貸借の終了に基く原告等の本訴請求はすべて理由がなく、失当として棄却を免れない。
七よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(海老塚和衛)